【その他の事例】脳卒中による高次脳機能障害を抱える患者の復職

2022.12.15

症例は40歳台、男性。企業で事務職として働いている。某日、会社へ出勤する際に会社までの通勤経路が急にわかなくなったため、妻に連れられ当院を受診した。検査では右後頭葉皮質下出血をみとめた。症状は「熟知している場所がわからず道に迷う」「新しい道が覚えられない」といったエピソードに代表される「地誌的失認」と判断した。急性期脳出血に関しては、良好な経過をたどり日常生活も自立したため、2週間で自宅退院となったが、地誌的失認は残存していた。そのため、復職に際しては脳卒中専門医が担当する両立支援外来を介入させることとした。

自宅療養では日常生活が問題なく送れたため、復職のため産業医面談が行われた。面談では、会話、生活動作ともに全く問題がなかったため「残業なしでの復職」が検討された。初回の両立支援外来では、業務に関しては問題がないものの、公共交通機関を利用した通勤は難しいと判断した。地誌的失認を理由として、休職期間を延長させることは本人・会社にとって不利益であり、在宅勤務中心での復職を意見書にて提言した。さらに在宅勤務であれば、多少の残業も許容できる状態であることも伝えた。会社側の理解は良好であり、制限を緩和できる段階となった際は、再度意見書を発行してほしいという希望があった。

患者は、この措置期間(1か月間)のあいだに妻と一緒に通勤の訓練を繰り返し、自宅から会社までの経路は独りで通勤できるようになった。2回目の両立支援外来では、新しい道を覚えることは苦手ではあったが、通勤に関しては問題なく可能になったことを確認し、在宅勤務の制限を解除することを提言した。その後1カ月間、残業制限下で出社勤務を行った。3回目の両立支援外来では、地誌的失認はほぼ軽快しており、就労も問題なくできていることを確認し、残業制限を解除することを提言した。

脳卒中による高次脳機能障害は、症状が人から見えにくく、理解が得られにくい。失語、失算、失書、半側空間無視、失行など症例ごとに症状は多彩であるが、支障は特定の業務に限定されていることも多く、少しの配慮で就労が可能となる場合がある。また、患者に生じている不調を、的確に会社側に伝えることで、会社側も対応がしやすくなる。脳卒中後遺症患者の両立支援外来では、これらの点を重視して介入することで、その意義が高まると考える。